
DEPTHS's MAIDEN

眠るたびに、息絶える
ママとパパに、挨拶をして。テーブルランプの明かりを決して。
重くなった瞼を閉じれば、どこからともなく音がする。
貝殻に耳をくっつけたときみたいに、あるはずもない波の音。
音がだんだんと大きくなって、波はどんどん近づいて、私の耳の先に、冷たい海水がぶつかった。
布団の中にいるはずなのに、どうしてなのかわからないけど、海水が私の体を満たす。
それは冷たいはずなのに血のように熱を持っていて、さらさらと流れる飲料水とは違って、べったりしていて、汗みたいで、呼吸をするたびに伸縮する肺のように行ったり来たりを繰り返す。
呼吸をして血を巡らせて、まるで海は生きているみたい。
そんなことを考えてると、私の周りの水位はだんだんと上がっていく。
だんだんと私の体は海の水に浸っていって、水はついに顔を覆い隠した。
景色はどんどん変わっていく。
少しだけ苦しいような気がするんだけど、なんだかちょっと心地がいい。
昔恋人が私の上に、寝っ転がってきた時に(そんなじゃれつきをするような関係性を築いているのだから他人にとやかく言われる筋合いはない)、想像よりもずっしりと重くて、息苦しいんだけど、なんだかやっと生きるためだけの呼吸ができたような気がした。
その時とおんなじ感じ。
つまり海が私に抱きついて、私の上に乗っかってきた。
沈めば沈むほど、段々と重くなる水圧に身動きができなくなってしまって、でもそれは立ち上がる必要を奪ってくれて、目を開けることも、手を上げることも、余計なことを考えることもできなくなって。
でもそんなものは、少なくとも今の私にとって、いらないもの。
だから、奪われたんじゃなくて、取り除いてくれてる。
どこまでも水位が上がってる。
というよりむしろ、私は背中に布団があるから、私が海の中に沈んでいるはずはないんだけど、淡い青の空から黒い絨毯へと、ふわりふわりと羽のような軌道を描いて沈んでいるような気さえする。
気付けばもう、深海。
ここの水圧は乱暴者で、私の肺を、やわらかいペットボトルみたいに、へし折って、握りつぶして、私の足も手もお腹も肩も奥二重な右目も全部全部まっ平。
私にとっていらないものを、すべてきれいに取り除く。
だけど私は、少しだけ、ここがきらいなわけがある。
それは、暖かい海の砂で眠る、たくさんの死体が不気味なこと。
あれは全部、私。
昨日の、一昨日の、先月の、三年前の、子供の頃の、生まれたての私。
ここで死ぬたびに、眠りについて、目が覚めるために生まれてくる。
眠ることは死ぬこと。
だって眠るために、生きてることなんて邪魔なだけ。
死体の山のてっぺんで、今日もおやすみ。
制作裏話
辛いこと、幸せなこと、普通のこと。
長くても短くても、何かの終わり際っていつもより全然違う意識が働きませんか?
私は、何かが終わる時に心が1番動くような気がしていて、何かの終わり際に自分って存在してるんだなと生を実感することが多いです。
この物語の女性は、眠ることを死、起きることを生まれると捉え、何度も死んで何度も生まれ変わることで、
この女性なりに日常を上手に生きようとしているのか、仕方なく生きようともがいているんだと思います。
どんな生き方であれ、内省を繰り返し、葛藤して、自己完結できる生き方は、人として強いなと思います。
フロント側のデザインは、タイトルと物語中の一文をメインにして、着用した時にみぞおちからお腹の位置に「眠る女性」を俯瞰したシルエットが重なるように配置を組みました。
バック側のデザインでは、女性の内側=腹のうちをイメージして、底に積み重なった死体の上で、女性が心の中で抱える闇と対峙している様子を描きました。
体内の底を表現したかったので、内臓と血液の赤黒さと、深海のような青緑を使って配色しました。
フロント側とバッグ側で、女性の位置がリンクするよう構成してみています。
以下は長くなるので、読みたい人だけどうぞ。
私の最も古い記憶は、生後5ヶ月あたりの頃に祖母の家で家族と雑魚寝をしている夜の記憶です。
めちゃくちゃでかいムカデが出現して、大人が大騒ぎしている様子を、寝転がりながら傍観していました。
目線の先にちょうど時計があって、時間は夜の8時ごろを指していました。
別にこの記憶自体がなにって訳ではなく、思い返すと、生まれてから最初に従わなければいけなかった社会のルールは、「この時間になったらこうしましょう」という、時間に対しての適切な行動をすることだった気がします。
この時間に起きて、この時間に出発して、これをして、帰ってきて、この時間に寝る。
「もう起きなさい」とか、「もう寝る時間」とか、そういうことをとにかくよく言われていました。
私は昔から不眠気味というか、皆が寝る時間に寝付けないタイプの人間でした。
幼少期は、寝室の中1人だけ眠っていない夜の時間がとにかく怖くて孤独で、このまま永遠に夜なんだと思うぐらい、夜が嫌いでした。
いろいろ怖い妄想も捗るし。
「ドリエル」という市販の睡眠薬のCMが流れ始めたのが、私が小学1,2年生の頃。
親にこれを買ってくれと頼んだら、子供なのに睡眠薬なんか飲んだらダメだと断られました。
そんな睡眠事情を抱えていたので、物心がついた頃から、寝付く方法を色んな手段で調べて試してきました。
有力候補の1つに、仰向けで全身を脱力させ、布団に吸収されてそのままどこまでも深い底に沈んでいくイメージを描く方法があります。
底はありません。
とにかく暗くて深い底に沈んでいくことだけをイメージし続けるのです。
眠れない時の時間はいつもの倍長く感じるので、すぐ目を開けたり動いたりしがちですが、体感30分くらいはそのまま動かず沈み続けてください。
具体的な映像イメージが必要な人は、ジョーダン・ピール監督の「ゲットアウト」という映画に、「Now, sink into the floor. Sink」と催眠をかけられるシーンがあるので、そのシーンを観てイメージすると良いと思います。
話を戻すと、夜と同じくらい眠ることにも恐怖を持っていて、もしこのまま目が覚めなかったら?とか、眠って起きた自分って今の自分と同じ自分?みたいな些細な妄想をたくさんしていました。
だから、嫌なことや逃げたいことがある時、眠ればリセットされて、今の自分とは違う自分になれて、みたいな、逃避の1つとして眠ることを覚えたりもしました。
自分が見ていた夢の中の景色を、彼女が見ている情景に重ねて、デザインを作ってみたのが今作です。
安らかに眠れる日が来ると良いですね。
#舞台設定
北欧的な寝室
少女の空想の海の中
#キャラクター設定
ゆかいで、ふゆかいな女の子
#アクション
美しくも残酷な深い深海の中、自分の死体の山の上で眠る少女
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